岡野武志

第二東京弁護士会所属。刑事事件で逮捕されてしまっても前科をつけずに解決できる方法があります。

「刑事事件 法律Know」では、逮捕や前科を回避する方法、逮捕後すぐに釈放されるためにできることを詳しく解説しています。

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前科の影響・デメリット5選を解説|就職や資格の影響とは?前科は回避できる

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当記事は、前科前科のもたらす影響について解説しています。

前科とは何か、前科が日常的・社会的にもたらす影響について確認していきましょう。

前科がつくことは、基本的にはデメリットしか存在しません。
前科は、罪を犯したことを裏付ける経歴のようなものだからです。

この記事の最後では、逮捕された被疑者にとって前科がつくことを回避するための対策についても言及していきましょう。
逮捕された被疑者やそのご家族にとって、犯罪の内容によっては、逮捕時点で前科がつくことを過度に恐れる必要はありません。

正しい知識を知り、社会生活の復帰に努めましょう。

  • そもそも前科とは?前歴との違いも知りたい
  • 前科は消滅することがある?
  • 前科が日常的・社会的に受ける影響・回避方法について知りたい

前科の基礎知識

前科・前歴

前科とは

前科とは、「有罪判決」を受けたことをいいます。
有罪判決とは、刑事裁判で、無罪判決以外の判決を言い渡されたことです。
懲役刑や禁錮刑などの実刑、執行猶予付き判決は、すべて前科となります。

よく比較される用語に「前歴」がありますが、前歴は、単に警察などの捜査機関に捜査された事実のことをいいます。

刑事事件の流れ

図にありますように、前科がつく流れとしては、捜査後起訴されることが前提です。
不起訴となれば事件は終了となり、前科もつきません。

前科は消滅する?

前科はいつか消滅するのか?と気になった方もいるのではないでしょうか?

結論、前科は完全には消滅しません。

社会生活をしていくなかでは、ある一定の期間を経過すれば刑の言渡しの効力は失われます。

どういうことかといいますと、刑事裁判の判決で「執行猶予」がついた場合を想定してください。
執行猶予期間の上限は5年ですが、最大5年の期間、罰金刑以上の刑に処されることなく過ごすことができれば刑の執行を受けなくてよくなります。
つまり、刑の言渡しの効力が失われるということです。

刑の言渡しの効力が失効すれば、前科のない人たちと同じような社会生活を送ることができます。

(刑の全部の執行猶予の猶予期間経過の効果)

第二十七条 刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。

刑法27条

また、罰金刑以上の前科がついた者の記録は、検察庁からその者の本籍地の市区町村長に通知されることになっています。
各市町村は、その記録をもとに「犯罪人名簿」を作成しますが、執行猶予期間を無事終えた際は、犯罪人名簿からも抹消されることになっています。

ただし、いくら刑の言渡しの効力が失効しても、警察署や検察庁にある犯罪履歴は消えません。
再犯の場合は、捜査機関に残っている犯歴が不利になることがあるのです。

前科の影響5選|デメリットを解説

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前科の影響1 就職・職業選択に不利

前科は、就職や転職に不利になります。

特段前科を申告する必要がない場合、自ら申告する必要まではありません。
ただし、採用前に前科の有無を確認してくる企業もあります。
その際に虚偽の申告をしてしまうと、あとから経歴詐称として立場上不利になり、結果ご自分の首を絞めかねません。

さらに、履歴書の中には「賞罰欄」を記載できる形式のものもありますが、使用する場合は正直に記載しましょう。
上記同様経歴詐称となる可能性があり、内定取消し解雇事由になることもあり得ます。

企業者には、採用の自由が認められています。

どのような人を雇用するのか、どのような条件で採用するかは企業側の自由ですので、前科の申告によって就職面接に採用されないことが懸念されるでしょう。

前科の影響2 国家試験・資格取得が制限される

前科は、各国家試験や資格取得に制限がかかることがあります。

先述のとおり、犯罪者の名簿は市町村で作成・保管されています。
これは、各資格取得を制限するにあたり、前科の履歴を把握しておくためです。

ここで、各国家資格の欠格事由についてご紹介していきましょう。
前科があると、せっかく国家試験に合格してもその業務をおこなえないことがあります。

弁護士の資格

弁護士の欠格事由は以下のとおりです。

(弁護士の欠格事由)第七条 

次に掲げる者は、第四条、第五条及び前条の規定にかかわらず、弁護士となる資格を有しない。

 禁錮以上の刑に処せられた者

 弾劾裁判所の罷免の裁判を受けた者
(以下略)

弁護士法7条

まず禁錮刑以上とは、禁錮刑・懲役刑・死刑などをいいます。

罰金刑であれば欠格事由に該当することはなく、身柄拘束もありません。
禁錮刑以上の刑には身柄拘束がついてくるため、非常に重いものになります。

これらの判決を受けた場合、弁護士になることができません。
ただし執行猶予付き判決の場合は、執行猶予期間を経過すれば、刑の言渡しは効力を失い欠格事由には該当しなくなります。

弁護士以外の法曹三者である裁判官や検察官においては、執行猶予期間を満了しても、その職業にふさわしくない者と判断され、まずなることはできないでしょう。

弁理士の場合

弁理士の欠格事由についてもみてみましょう。
基本的には弁護士の場合と同様ですが、弁理士の業務に関する法律違反について厳しく書かれています。

(欠格事由)第八条 

次の各号のいずれかに該当する者は、前条の規定にかかわらず、弁理士となる資格を有しない。

 禁錮以上の刑に処せられた者

 前号に該当する者を除くほか、第七十八条から第八十一条まで若しくは第八十一条の三の罪、特許法第百九十六条から第百九十八条まで若しくは第二百条の罪、実用新案法第五十六条から第五十八条まで若しくは第六十条の罪、意匠法第六十九条から第七十一条まで若しくは第七十三条の罪又は商標法第七十八条から第八十条まで若しくは同法附則第二十八条の罪を犯し、罰金の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなった日から五年を経過しない者

 前二号に該当する者を除くほか、関税法第百八条の四第二項(同法第六十九条の二第一項第三号及び第四号に係る部分に限る。以下この号において同じ。)、第三項(同法第百八条の四第二項に係る部分に限る。)若しくは第五項(同法第六十九条の二第一項第三号及び第四号に係る部分に限る。)、第百九条第二項(同法第六十九条の十一第一項第九号及び第十号に係る部分に限る。以下この号において同じ。)、第三項(同法第百九条第二項に係る部分に限る。)若しくは第五項(同法第六十九条の十一第一項第九号及び第十号に係る部分に限る。)若しくは第百十二条第一項(同法第百八条の四第二項及び第百九条第二項に係る部分に限る。)の罪、著作権法第百十九条から第百二十二条までの罪、半導体集積回路の回路配置に関する法律第五十一条第一項若しくは第五十二条の罪又は不正競争防止法第二十一条第一項、第二項第一号から第五号まで若しくは第七号(同法第十八条第一項に係る部分を除く。)、第三項若しくは第四項の罪を犯し、罰金の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなった日から三年を経過しない者
(以下略)

弁理士法8条

税理士・社会保険労務士の場合

税理士の欠格条項には、税金に関する法律違反について厳しく書かれています。

(欠格条項)第四条 
次の各号のいずれかに該当する者は、前条の規定にかかわらず、税理士となる資格を有しない。
(中略)

 国税(特別法人事業税を除く。以下この条、第二十四条、第三十六条、第四十一条の三及び第四十六条において同じ。)若しくは地方税に関する法令又はこの法律の規定により禁錮以上の刑に処せられた者で、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から五年を経過しないもの

 国税若しくは地方税に関する法令若しくはこの法律の規定により罰金の刑に処せられた者又は国税通則法、関税法若しくは地方税法の規定により通告処分を受けた者で、それぞれその刑の執行を終わり、若しくは執行を受けることがなくなつた日又はその通告の旨を履行した日から三年を経過しないもの

 国税又は地方税に関する法令及びこの法律以外の法令の規定により禁錮以上の刑に処せられた者で、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から三年を経過しないもの
(以下略)

税理士法4条

社会保険労務士の欠格事由については以下のとおりです。
社会保険労務士に関しては、労働保険法の違反について厳しく書かれています。

(欠格事由)第五条 
次の各号のいずれかに該当する者は、第三条の規定にかかわらず、社会保険労務士となる資格を有しない。
(中略)
 この法律又は労働社会保険諸法令の規定により罰金以上の刑に処せられた者で、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から三年を経過しないもの

 前号に掲げる法令以外の法令の規定により禁錮以上の刑に処せられた者で、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から三年を経過しないもの

社会保険労務士法5条

刑法上の禁錮以上の刑に処せられた場合などについては、税理士の場合と同様です。

前科の影響3 海外旅行ができなくなる?

つづいて、海外旅行ができなくなるリスクについて解説しましょう。

海外旅行にはパスポートの発給が必要不可欠ですが、パスポートの発給・取得時点で前科が影響してしまうことがあります。

パスポートの発給制限については「旅券法」という法律に規定されており、たとえば「禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者」については取得できないことになっています。

また、アメリカやカナダへの渡航は特に厳しく取り締まられており、パスポートを取得できても、渡航先の入国審査で引っかかってしまうことがあります。

罰金刑以下(罰金刑を含みます)の前科であれば、パスポート取得に旅券法上の影響はありません。

パスポート発給・取得ができた場合であっても、ビザの取得が必要な一部の国では注意が必要です。

犯罪の内容によっては、ビザの取得ができない場合があります。

また、ビザ免除プログラムであるESTAなども近年採用されていますが、当システムは逮捕歴、つまり前歴がある時点で利用できません。

前科が海外出張にもたらす影響・その他パスポートやビザ取得については『前科があると海外出張できない?海外出張と前科の影響|ビザ取得は可能?』を参考にしてください。

前科の影響4 離婚事由に該当する

前科者になったことによって、離婚事由に該当してしまうことがあります。

もちろん、離婚は合意が大前提ですので、前科者だからといって離婚しなければならないわけではありません。
前科のある配偶者が離婚に反対している場合に、前科のない配偶者が離婚を切り出したとき、前科のある配偶者が不利になる可能性があるのです。

つまり離婚で協議が調わない場合、調停や訴訟に移行しますが、その際に負けてしまう可能性があるということです。
前科が離婚事由に該当しうる根拠条文は、民法に規定されています。

(裁判上の離婚)第七百七十条 
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
(中略)
 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

民法770条

その他婚姻を継続しがたい重大な事由に該当するものは、前科だけに限りません。
また前科があったとしても、その内容やその他の背景・事情などをもって総合的に判断されるため、ただちに離婚されるわけでもありません。

配偶者の片方が前科者であっても、夫婦の関係修復が困難であると認められない場合には、離婚が成立しないこともあるでしょう。

前科の影響5 インターネットの記事に公開される

特に逮捕についてニュースで大々的に取り上げられた場合、インターネット上に前科者として話題に上ってしまうことがあります。

インターネット上の記事は拡散されやすい傾向にあるため、完全に削除されるまでに時間がかかってしまうこともあるでしょう。
たとえば執行猶予期間を満了し、社会復帰を果たそうとしても、記事が妨げになり精神的にダメージを受けてしまうことが懸念されます。

以上、前科がもたらす影響についてご説明しました。
執行猶予付き判決であっても、身柄拘束はないものの様々な制限があることがお分かりいただけたかと思います。

前科に影響されない人生のために

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前科は回避することが可能です。

また、一度ついてしまった前科を取り消すことはできません。

そのためには、起訴されない対策をすることに尽きるでしょう。

刑事事件の加害者になってしまった場合は、速やかに弁護士相談をされることをおすすめします。

刑事事件は、ひとたび逮捕されてしまうと厳格な手続き・時間に沿って進行していきます。
うっかりしていると、前科を回避できない時期に差し掛かっていることも例外ではありません。

たとえば被害者がいる事件の場合、前科回避のためには弁護士を介した示談交渉が重要です。
また、検察官に起訴されるタイミングまでに示談をしておかなければ、起訴され前科がついてしまうことが避けられなくなってきます。
被害者がいない事件においては、贖罪寄付をするなどの方法もあります。

前章でお伝えした、離婚事由に該当しそうなケースやインターネット上の削除依頼については、別途事後に刑事弁護依頼で緩和することはできるかもしれません。

しかし、前科それ自体を免除したり、事後に緩和したりする制度は存在しないのです。

一度犯してしまった罪については真摯に向き合い、加害者であっても前科の回避をあきらめずに検討してみましょう。