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名誉毀損とは?|名誉毀損罪の構成要件と名誉毀損罪が成立しないケース
名誉毀損は、刑法の規定で処罰されるものと、民事上の責任に問われるものとが存在します。
民事上の名誉毀損については明確な条文が存在しませんが、民法の不法行為(第709条)に該当し、名誉毀損が認められれば慰謝料問題にもなるでしょう。
本記事ではおもに、刑事事件での名誉毀損について解説しています。
ご自分のしてしまった行為が名誉毀損に当たるかもしれない・・・
被害者に告訴されそうで困っている・・・
などの不安をお持ちの方は、まずその行為が名誉毀損に当たるかどうかから検討する必要があるでしょう。
これから、以下の疑問に沿って解説していきます。
- 名誉毀損罪はどのような要件で成立する?
- 名誉毀損罪の刑罰は?
- 名誉毀損が成立しない場合はどのようなとき?
- 名誉毀損の加害者が告訴されないためには?
それではまず、名誉毀損罪が成立する要件「犯罪構成要件」から確認していきましょう。
目次
名誉毀損が成立する3つの要件
どのような要件をもって「名誉毀損罪」は成立するのでしょうか。
まずは、名誉毀損罪の構成要件についてみていきましょう。
名誉毀損罪の構成要件は、おもに3つに分けて説明することができます。
名誉毀損とは人の社会的評価を下げること
名誉毀損とはまず、「人の社会的評価を下げること」です。
よく名誉毀損で訴えてやる!などと聞きますが、主観ではなく客観的に社会的評価が下がったことが必要になります。
ところで社会的評価とは、人に対して「社会」が与える評価のことをいっています。
とはいえ、目に見えないものを実際に証明することは難しいでしょう。
そのため社会的評価の低下とは、実際に社会的評価が下がったことを要件としているのではありません。
何が社会的評価の低下に該当するかは判断の難しいところです。
個別に該当するかを知りたい方は、一度弁護士に相談してみましょう。
社会的評価の低下の例
- インターネットやSNSに第三者の犯罪事実を書き込む
- 週刊誌で芸能人の不倫の事実を公表する
あくまで一例です。
インターネットに他人の犯罪事実を書き込むことや、芸能人であれ不倫の事実について過度な表現をすれば名誉毀損罪にあたるでしょう。
しかし後述しますが、第三者の犯罪事実を書き込むことが、他の一般人にとって利益になることもあり得ます(公共の利益)。
また、週刊誌の内容が名誉毀損罪にあたる可能性のある一方、憲法21条「表現の自由」とバッティングすることもあります。
そのため、利益と損害のバランスが必要になってくることも、名誉毀損罪の特徴といえるでしょう。
名誉毀損とは事実を摘示すること
名誉毀損にいう「事実」とは、真実かどうかは関係ありません。
具体的に「事実」を周囲に摘示したのであれば罪になる可能性があります。
ウソであっても名誉毀損罪になる可能性がありますので、いわゆるデマであっても成立しえます。
前述の犯罪事実の書き込みや不倫の事実が、まさに名誉毀損罪に該当する可能性があるのです。
名誉毀損罪と混同される罪に「侮辱罪」があげられます。
侮辱罪では「事実の摘示」は要件となりません。
侮辱というのは軽べつの意思ですので、たとえば単なる「悪口」であれば名誉毀損罪でなく侮辱罪に該当するでしょう。
名誉毀損とは「公然」であること
「公然」とは、「不特定多数の人間が知ることのできる可能性」があることです。
不特定多数の人数ですが、2~3人でも伝播性(でんぱせい)があれば公然であると解釈されるでしょう。
伝播性とは、名誉毀損にあたる「事実」が広く他人に知れ渡ることをいいます。
たとえば先述のインターネットの書き込みや週刊誌などです。
これらの手段は、不特定多数が容易に知ることのできる可能性があるといえるでしょう。
インターネットはいまや、一般読者が情報を得るためにおおいに活用するものです。
かつてはインターネット情報の信頼性の程度が問題視されていました。
しかし現代では、裁判上においてもインターネット情報であるからといって信頼性を直ちに低下するものではないとしています。
名誉毀損罪で問われる刑法上の責任
名誉毀損罪は、刑法第230条に規定されています。
(名誉毀損)第二百三十条
刑法230条
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
名誉毀損罪が成立すれば、刑法上では懲役刑もしくは禁錮刑か罰金刑といっています。
また、2項では死者の名誉に関する規定がおかれています。
名誉毀損罪は死者に対しても成立しえます。
この罪の保護法益は、「死者の名誉」です。
死者以外の名誉毀損罪と区別すべき点は、死者の場合「公然とウソの事実を示した場合のみ」罰するということです。
名誉毀損罪が成立しない3つのケース
名誉毀損罪には免責規定があります。
たとえ他人の名誉を毀損したとしても、これからご説明する条件を満たした場合、名誉毀損罪は成立しません。
つまりは、名誉毀損に違法性がないとして処罰されないのです。
このことを「違法性阻却事由に該当する」といいます。
以下は刑法230条の2を抜粋したものです。
(公共の利害に関する場合の特例)第二百三十条の二
前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
刑法230条の2
名誉毀損の免責規定をまとめると以下になります。
- 公共の利害に関する事実の摘示
- 専ら公益を図ることにあったと認める場合
- 真実であることの証明があったとき
これらすべてを満たす場合に、名誉毀損罪が不成立となるのです。
では順番にみていきましょう。
名誉毀損内容が「公共の利害に関する事実」である
公共の利害に関する事実とは?
社会の利害にかかわる事実のこと
公判前、つまり起訴前の犯罪に関する事柄は、公共の利害に関する事実とみなします。
たとえば、芸能人の○○さんが覚せい剤に手を出している、などという「事実」です。
そのほか、ブラック企業の悪事などです。
企業が労働基準法違反をしている等の事実は、従業員の利益に関する事実であると判断される可能性があります。
名誉毀損行為に「公共の利益のため」という目的がある
公共の利益のためとは?
「事実」の公表が主に社会のためを思ってしたことである
公共の利益とは、社会一般のための利益になるという意味合いです。
たとえば先ほどの「犯罪行為」に関する事実を公表した場合、原則として公共の利益に該当するとされています。
政治家のスキャンダルについては?
報道関連で、対象が政治家のスキャンダルだった場合は、刑法第230条の2第3項が適用になります。
政治家は公務員だからです。
公務員・公務員の候補者に関する事実で、それが真実であることが証明された場合も名誉毀損罪は成立しません。
ではつぎに、最後の免責規定である真実性の証明についてみていきましょう。
名誉毀損の「事実」が真実であること
真実の内容であるという証明をする責任(挙証責任)は、被告人側(つまり加害者側)にあります。
また、仮に真実性の証明が不成功に終わったとしても、真実であると誤信することについて相当の理由や根拠があった場合、名誉毀損罪は成立しないとされています。
判例の文言は以下です。
行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由がある」と認められれば、名誉毀損罪の故意がないとして、処罰されない
最高裁昭和44年6月25日判決
ただ、そもそも真実だと誤信するような相当性すらない場合、先述の2つの免責要件である「公共の利害に関する事実」・「専ら公益を図る目的」が認められたとしても、名誉毀損罪は成立してしまいます。
名誉毀損罪は親告罪|被害者との示談はなるべく早く
名誉毀損罪は「親告罪」といわれるものです。
親告罪とは、被害者の告訴がないと公訴されない、というものです(刑法232条)。
公訴は検察官がおこないますが、いくら名誉毀損罪に該当しても、被害者からの告訴がなければ加害者が起訴されることはありません。
つまり名誉毀損罪は、被害者の被害感情によって刑事事件になるかならないかが分かれるところでもあります。
名誉毀損罪などの被害者が特定できている犯罪は、示談が有効です。
名誉毀損罪で訴えられそう・逮捕されて刑事事件に発展しそうだという方は、弁護士などに被害者との示談交渉を依頼しておくと安心です。
被害者との示談がうまくいった場合、被害者が告訴を取り下げてくれることにも繋がります。
そうすると、名誉毀損に当たる行為をしても刑事事件化せずに済むでしょう。
まとめ
最後に、名誉毀損とは?についてまとめておきましょう。
- 刑法上の名誉毀損は刑法第230条に規定されている
- 名誉毀損罪は公然と「事実」を摘示したうえで、他人の社会的評価を下げた場合に成立する
- 上記名誉毀損罪の構成要件を満たしても、免責規定に該当すれば名誉毀損罪は成立しない
- 免責規定にある真実性の証明は被告人がおこなう
- 名誉毀損罪は親告罪なので、被害者からの刑事告訴がないとそもそも起訴されない
「人の社会的評価」は、名誉毀損罪の保護法益にあたります。
個人の名誉意識を保護法益としているわけではないため、名誉感情だけで直ちに名誉毀損罪とするのではありません。