岡野武志

第二東京弁護士会所属。刑事事件で逮捕されてしまっても前科をつけずに解決できる方法があります。

「刑事事件 法律Know」では、逮捕や前科を回避する方法、逮捕後すぐに釈放されるためにできることを詳しく解説しています。

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喧嘩(ケンカ)で暴行罪?暴行罪にあたるケース・あたらないケースを詳しく解説

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相手と口論になり、殴り合いの喧嘩になったということはよくある話です。

ささいなトラブルがきっかけとなり、殴る蹴るなどの暴行をした、または、どちらかあるいは双方が怪我をしてしまったということもあるでしょう。

では、相手との殴り合いなどの喧嘩が犯罪になってしまうことはあるのでしょうか?
また、暴行の程度により罪名は変わるのでしょうか?

喧嘩で逮捕される可能性についても気になります。
あるいは逮捕はされていなくとも、相手から被害届を出された場合は逮捕されてしまうのでしょうか。

当記事においては、喧嘩など殴り合いのトラブルにより、犯罪になる可能性やその内容、罪にならないための対策などについて解説していきます。

  • 喧嘩で暴行罪あるいは傷害罪になってしまうケースとは?
  • 暴行で逮捕されることはある?逮捕されるケースとは?
  • 殴り合いの喧嘩をしても罪にならないケースとは?
  • 暴行で刑事事件に発展しそう・した場合には何すればいい?

喧嘩で犯罪になる?暴行罪と傷害罪

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暴行罪とは

口論のみで犯罪になることは考えにくいですが、殴り合いの喧嘩に発展した場合には、犯罪になることがあります。

まずは暴行罪について解説いたしましょう。

(暴行)第二百八条 

暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

刑法第208条

喧嘩などの殴り合いで、「暴行」をしたと認められれば暴行罪にあたる可能性があります。

なお、暴行罪を成立させる要件に該当しても、情状などにより罪に問われないケースもあります。
具体的には、刑事事件化せず示談にいたったり、逮捕されても起訴されなかったりした場合などです。
罪にならない詳細については、目次「 喧嘩で暴行罪として逮捕されるケース・罪にならないケース 」で解説いたしましょう。

相手に加えた行為が「暴行」といえるためには、暴行の定義に合致しなければなりません。

暴行の定義は「人の身体に向けられた不法な有形力の行使」とされています。

殴る・蹴る・つばを吹きかけるなどの行為は、暴行にあたります。

一方怪我してしまった場合には、暴行罪ではなく、次章でご説明する「傷害罪」に該当します。

つまり、暴行しても相手に怪我がなければ暴行罪、暴行によって相手を怪我(傷害)させてしまった場合には傷害罪が成立することになるのです。

喧嘩のシーンにおいては、たとえばついカッとなって胸ぐらをつかみ、殴りはしなかった場合であっても暴行罪になりえます。
胸ぐらをつかむ行為が、暴行とされる場合があるのです。
さらに殴るなどし、怪我にいたった場合は傷害罪になります。

暴行罪は、傷害罪の未遂犯である役割を果たしているともいえるでしょう。

暴行罪は相手に触れなくても成立する?

ここで気になるのが、相手に触れていない場合であっても、暴行罪が成立するのかどうかということです。
殴り合いの喧嘩にまでは発展しなかったが、ナイフを振り回した場合はどうでしょうか。

そのような危険な行為をしたとしても、相手の身体に触れていなければ問題ないのでしょうか。

実は暴行というためには、「傷害の危険さえ発生すればたりる」とされています。

古い判例にはなりますが、四畳半の部屋で日本刀を振り回す行為(最決昭39・1・28)や人の近くに石を投げる行為(東京高判昭25・6・10)も、暴行罪にあたるとされています。

傷害罪とは

傷害罪の規定は以下のとおりです。

(傷害)第二百四条 

人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

刑法第204条

暴行により、「人を傷害させた」罪が傷害罪です。

また、「傷害」とは、「人の生理的機能の障害」と定義されています。
殴り合いの喧嘩の場合ですと、打撲傷や裂傷などが挙げられるでしょう。

人を殴る蹴るという行為自体は暴行罪ですが、傷害罪が成立する以上、暴行罪は成立しません。

喧嘩で暴行罪として逮捕されるケース・罪にならないケース

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暴行罪で逮捕されるケースとは

暴行罪・傷害罪どちらの嫌疑があったとしても、逮捕要件は基本的に同じです。

逮捕の要件

殴り合いの喧嘩をし、暴行罪や傷害罪の可能性を考え警察に通報したとします。

当事者はまもなくパトカーに連れ去られますが、事情聴取をされたとしても、かならず逮捕されるわけではありません。

暴行罪・傷害罪の疑いで逮捕されるためには、暴行をしたことが明らかであることに加え、被疑者が逃亡したり証拠隠しをしたりする可能性があることが必要です。

殴り合いの喧嘩であっても、喧嘩の責任は両者にあります。
両者が頭を冷やし、その場で和解などした場合には逮捕されないこともあるでしょう。
逮捕の必要性がないと判断されるためです。

逮捕されず、さらに刑事事件化しなかった場合は、暴行罪や傷害罪として処罰されることもありません。

なお、被害届が出されたことをきっかけに捜査開始となり、逮捕される可能性はあります。
ただし、先ほどの逮捕要件や暴行の程度などにより判断されるでしょう。

暴行罪や傷害罪にならなかった場合でも、民事的な賠償責任は免れない可能性があります。

たとえば怪我をしたケースですと、相手の治療費などを立て替えて支払う必要が出てきます。

(不法行為による損害賠償)第七百九条 

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法第709条

暴行罪で罪にならないケースとは?

違法性と責任

殴り合いから暴行罪や傷害罪を構成しうる、違法性・責任について言及しましょう。
どの犯罪を構成するにあたっても、違法性と責任を満たすことが要件になります。
逆をいえば、違法性と責任が阻却されれば罪になりません。

以下を例に解説します。

  1. ボクシングは喧嘩とも似ているが、暴行罪や傷害罪が成立しないのか?
  2. 暴行や傷害の疑いはあるけれど、被疑者がお酒を飲んでおり泥酔していた場合でも罪になるのか?

まずは1について、違法性の見地から解説いたします。

暴行罪あるいは傷害罪が成立するには、暴行または傷害が違法なものでなければなりません。

ボクシングはそもそもスポーツであり、正当業務行為だとされています。

よって、ボクシングの試合中に生じた暴行行為は合法であると考えます。

では2について、今度は責任の有無について検討しましょう。

お酒に酔っていてまともな判断力を失っていたことが、暴行罪の責任を阻却する事由になるのか、ということです。

たしかに泥酔状態ですと、つい感情的になることも多く、普段とは違う行動を取ってしまいがちです。

ただ結論を申し上げますと、泥酔だったとしても責任が阻却されることは基本的にありません。

理由・根拠は以下のとおりです。

泥酔が責任阻却事由にあたらない理由・根拠

単純に泥酔している(酔っている)のみでは、刑法39条1項の「心神喪失者」・同条2項の「心神耗弱者」にあたらないため

(心神喪失及び心神耗弱)第三十九条 

心神喪失者の行為は、罰しない。

 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。

刑法第39条

責任能力とは、以下2つをいいます。

  • 弁識能力
  • 制御能力

弁識能力とは、事の善悪を判断する力・制御能力とは自分自身の行動をコントロールする力のことです。
これらの能力を欠く者は、法的に非難されるに値しないのです。

泥酔状態だったというだけでは、完全責任能力があったと判断されてしまいます。

また、泥酔していて記憶にないなどと供述した場合、「否認事件」として扱われ、不利になるケースも想定されるでしょう。

暴行罪で逮捕されても不起訴になれば罪にならない

不起訴の流れ

罪になる場合というのは、刑事裁判で有罪判決を受けたときのみです。

いくら犯罪の嫌疑があり逮捕にいたっても、有罪判決が下るまでは無罪と推定されるからです。

上の図のように、検察官の判断により不起訴処分が確定した際は、事件は終了です。
前科がつくこともありません。

無罪判決と違い、起訴を猶予された・あるいは起訴をするだけの嫌疑が不十分だったということにとどまりますが、有罪でないことには変わりないのです。

よって不起訴処分を獲得できた場合、逮捕中であれば釈放され、在宅捜査であればそれ以降捜査されることはありません。

暴行しても正当防衛だった場合は罪にならない

正当防衛は、違法性阻却事由にあたります。

正当防衛とは

犯罪から自分自身や他人の身を守るため、やむを得ず相手に対しておこなった行為をいいます。
過剰な防衛は正当防衛にあたりません。

(正当防衛)第三十六条 

急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

刑法第36条

正当防衛といえるためには、正当防衛の必要性や相当性、そもそも防衛のための行為であったかどうかが問題となります。

殴り合いの喧嘩で以下のようなケースでは、正当防衛が認められない可能性が高いでしょう。

  • そもそも自分から相手を殴り、相手からの返り討ちにあった際、さらに身を守るため相手に暴行した場合
  • 相手からの攻撃が予想されたため、自分から攻撃に立ち向かった場合

上記にはどちらも相手を加害する意思があり、正当防衛の名を借りた攻撃とみなされる可能性が高いのです。

喧嘩で暴行罪にならないためには弁護士へ

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喧嘩で暴行罪にならないためには弁護士相談しましょう

第一に弁護士相談です。

逮捕中であれば、当番弁護士もしくは私選弁護士を留置場に派遣要請できます。
このことを「弁護士接見」といいます。
まずは、捜査官の取り調べ対策などを聞いておきましょう。

逮捕後もしくは在宅捜査中であれば、起訴される可能性などを見込んで法律相談しておきましょう。
解決実績のある弁護士事務所を選択すると安心です。

喧嘩で暴行罪にならないためには示談しましょう

喧嘩でかりに逮捕されても、微罪処分になることも珍しくありません。
暴行・傷害事件は、比較的軽微な事案も多いのです。
微罪処分であれば、そもそも検察官にも送致されません。

ただ、いきすぎた暴行行為で相手を怪我させてしまったり、なにか物を壊してしまったりした場合には、微罪処分にはならず、別途示談も必要になるケースがあります。

ここで、民事責任と刑事責任の話を補足いたします。

暴行罪で負う可能性のある加害者の責任
  • 刑事責任
    刑事事件化で有罪になれば、国家権力が発動され、刑罰というかたちで責任を負う。
  • 民事責任
    相手個人に対しての責任。
    治療費や物に対する損害金・慰謝料なども含まれることが多い。

暴行罪もしくは傷害罪で起訴を回避するためには、被害者と示談をしておくことが重要です。

起訴前であれば不起訴処分を得られたり、起訴後であれば刑罰の軽減につながります。

被害者との示談内容によっては、被害届の取り下げに応じてもらえることもあります。

被害届はかならず捜査の対象となるわけではありませんが、取り下げに応じてもらえた場合は、被疑者にとって有利になります。

暴行罪の示談金の相場は?

加療(全治)期間により異なるでしょう。
10万円から100万円以下が想定されます。

また、弁護士を依頼する費用とは別に用意する必要があります。

そもそも、喧嘩で暴行罪になるのかどうかがわからない・暴行のみならず傷害事件になりそう、などとご心配な方は、弁護士相談で早期解決を図りましょう。