岡野武志

第二東京弁護士会所属。刑事事件で逮捕されてしまっても前科をつけずに解決できる方法があります。

「刑事事件 法律Know」では、逮捕や前科を回避する方法、逮捕後すぐに釈放されるためにできることを詳しく解説しています。

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住居侵入罪の構成要件|住居や建造物とは?どこに侵入したら罪になる?

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住居侵入罪に該当するためには、住居侵入罪個別の犯罪成立要件を満たす必要があります。

この犯罪要件を満たすことを「構成要件該当性(こうせいようけんがいとうせい)」といいますが、刑法において犯罪と断定するためには必ず必要になってきます。

当記事にたどり着いたあなたは、以下の疑問をお持ちではないでしょうか。

  • 住居侵入罪はどこに侵入したら違法になるの?
  • 住居侵入罪が未遂となる場合とは?
  • 窃盗や強盗などで住居や建造物に侵入した場合はどうなる?
  • 住居侵入罪の「保護法益」とは一体なに?

住居侵入罪の構成要件に該当すれば、被疑者は逮捕され、最悪の場合有罪判決が下ることもあります。
当記事では、住居侵入罪(住居侵入等)の条文について詳しく解説し、判例や学説についても紹介いたします。

住居侵入罪(不法侵入)とは

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住居侵入罪に該当する場合とは、以下の条文の要件を満たしたときです。

(住居侵入等)第百三十条 

正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

刑法130条
  1. 正当な理由がないのにもかかわらず
  2. 人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に
  3. 侵入した

場合に住居等侵入罪は成立します。

条文の後半部分は、後述しますが「不退去罪」についてかかれています。

住居侵入罪の刑罰は、起訴され罰金刑となれば最高で10万円、懲役刑となれば最大で3年とされています。
逮捕後釈放された場合や不起訴になった場合をのぞき、上記の範囲内で刑罰が科せられます。

住居侵入罪は未遂罪でも処罰される可能性があります。
ただし未遂罪の場合は、以下条文の適用により、処罰が軽減される可能性があります。

(未遂減免)第四十三条 

犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。

刑法43条

ただし注意したいのは、未遂に終わったからといって、かならずしも刑が減免されるわけではないことです。
住居侵入前に被害者に見つかり、処罰感情を強くもたれた場合などは未遂でも処罰対象となる可能性があります。

なお、住居侵入罪における「既遂」とは、身体全体が侵入したことをいいます。
よって、たとえば身体の一部しか入れていない状態で見つかった場合は、未遂罪で処罰されることになるのです。

身体の全部がどこに侵入していたかも問題となりますが、後述するように、住居や建造物のみならず周辺の付属地なども対象になります。

また住居等侵入罪は、他の犯罪とセットで犯すケースが多いのが特徴的です。
たとえば、窃盗目的で住居に侵入した場合や、強盗や盗撮目的で建造物等に侵入した場合です。
このように犯罪の手段である行為が他の罪名に触れることを、「牽連犯(けんれんはん)」といいます。

住居侵入罪が牽連犯である場合、2つ以上の罪のうち重い方の規定で処罰されることになっています。

次章では、住居侵入罪の構成要件について詳しくみていきましょう。

住居侵入罪の構成要件

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住居侵入罪の構成要件(1)正当な理由がないとは

正当な理由がないとは、単に「違法な場合」をさします。

住居などを管理している者の意思に反すれば「違法」であると解されるでしょう。

住居侵入罪の構成要件(2)住居・邸宅・建造物とは

住居について

「住居」とは

人が起臥(きが)寝食する場所をいいます。
判例によれば、「住居」は住宅の室内に限らず、住居に付属し、もっぱら居住者が使用する土地であれば認められるとしています。
たとえば住居に隣接する庭などの囲繞地(いにょうち)です。
また、人が寝泊まりするために一時的に利用するホテルの客室も住居と判断されます。

マンションのベランダや階段・廊下などの共用部分については、最高裁判決では後述する「邸宅」であると解しています。
よって「住居」とは基本的に居住者の専有部分をさすことが一般的ですが、それらは居住空間に近いため、「住居」と解されることもあります。
いずれにせよ、住居管理者の意思に反する侵入であれば不法侵入の可能性は高くなるでしょう。

何が「囲繞地」に該当するかについては諸説ありますが、判例は「建物に接してその周辺に存在し、かつ、管理者が外部との境界に門塀等の囲障を設置することにより、建物の附属地として、建物利用のために供されるものであることが明示されれば足りる」としています。

邸宅・建造物・艦船について

人の看守する邸宅とは

邸宅とは、住居目的で建てられたものではあるが、実際に人が住んでいないいわゆる空き家などをさします。
別荘などが例です。
「人の看守する」とは、人による事実上の管理・支配を意味しています。
囲繞地も保護の対象です。

建造物とは

建造物とは、商業施設や学校、会社やその敷地内などをいい、住居以外の建物をさしています。
囲繞地も保護の対象です。

艦船とは

艦船とは、人が居住できるほどの大きさがある艦艇(軍艦)および国や民間が所有する船舶のことをさしています。

ところで住居や邸宅は、その性質上プライバシー保護が強く重視されるものであるため、隣接する土地なども一括して客体と認められます。
しかし建造物の場合は少々性質が異なり、住居が個人の生活領域であるのに対し、商業施設などの建造物は広くサービスを提供している営業の場でもあります。
このように住居とは異なった領域をもつ建造物においても、なぜ囲繞地が客体として認められるのでしょうか。

住居や邸宅であれ建造物であれ、それらが一定の目的を有しており、日常的に利用・支配・管理されている場合には、正当な理由のない「侵入」を保護すべきだと考えられています。
よって、性質の異なる建造物についても、住居や邸宅と同じように囲繞地についても保護すべき必要があるのです。

なお囲繞地の客体として、建造物の屋根上屋上に侵入した場合も住居侵入罪として認めた判例があります。

住居侵入罪の構成要件(3)どのような侵入が違法なのか

侵入行為とは?

住居侵入罪における「侵入」とは、居住者や管理人の意思に反した立ち入りであるとされています。
建物に門塀などをもうけ、外部からの侵入を制限していた場合に、それを正当な理由なく乗り越えた際は不法侵入だといっているのです。
乗り越えるものの対象としては、たとえば建造物の囲繞地であるブロック塀や門塀です。

瑕疵ある意思表示にもとづいて侵入した場合

上記ご説明したとおり、居住者や管理者の意思に反しない立ち入りは住居侵入罪に問われないということになります。
しかし、法律上よく問題とされる意思表示として「瑕疵ある意思表示」というものがあります。

通常、居住者などの承諾があれば住居に侵入しても罪になりません。
しかし、たとえば窃盗の目的を隠して侵入した犯人であった場合はどうでしょうか。
その目的に気づかずに犯人を家にあげてしまった場合、承諾があったとして犯人は住居侵入罪に問われないのでしょうか。

瑕疵ある意思表示とは

内心的な意思表示を形成する過程のなかで、詐欺や脅迫により自由な判断ができなかった意思表示をいいます。
意思表示はあるものの、動機に対して他人の干渉が関与している状態をいいます。

「瑕疵ある意思表示」とは民法上の法律用語ですが、住居侵入罪においても検討されます。
いくら居住者が侵入を同意・承諾したからといって、犯人からの詐欺や脅迫を受けて住居などにあげてしまった場合は、その同意や承諾がなかったものとみなします。

判例においては、居住者が現実的に承諾していても、その同意・承諾が真意にもとづかないものであれば住居侵入罪は成立するとされています。

不退去罪の構成要件

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刑法130条の後半部分「不退去罪」についても触れておきましょう。
条文後半には、「又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。」と書いています。

不退去罪の構成要件は、「出ていくよう要求を受けたにもかかわらず人の住居・人の看守する邸宅・建造物もしくは艦船から退去しないこと」です。
住居や建造物などの概念については、先述のとおりです。

住居侵入罪の保護法益とは

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そもそも保護法益とは

保護法益とは?

法律(刑法)によって保護されるべき利益をいいます。
つまり、犯罪の違法な行為によって侵害された被害者の利益です。

刑法・刑罰の役割として、犯罪を防止することのほか、被害者の法益を保護するという考えがあります。
個別の犯罪で保護法益が何であるのかを検討し、それが侵害されたのであれば違法だといえるでしょう。

住居侵入罪の保護法益をどのようにとらえるかについては、以下の説があります。

  • 住居権説
  • 平穏説

住居権説とは?

住居侵入罪で保護すべき法益を、「住居権」・「管理者権」とする考え方です。
この説によって守られるべきものとする事柄は、「誰に立ち入りを認めるかの自由」です。
つまり、住居の権利を持つ管理者の意思に反する「侵入」が違法であるといっています。

住居権説は、細かく「旧住居権説」と「新住居権説」とがあります。
以下、それぞれの説をご紹介します。

旧住居権説
住居の支配権を有する者のみが住居権者とする考え方

新住居権説
住居の支配権を有する者のみでなく、その住居に現に居住し、外部からの立ち入りに同意を与える能力がある者についても住居権があるとする考え方

かつての判例において、以下のような事例があります。

男性が、不貞をはたらく目的で婚姻中の女性の家に上がり込んだ事件。

当時不在だった夫の同意がなかったとして、住居侵入罪が成立。

妻である女性が男性の侵入に同意したにもかかわらず、家長である夫のみに住居権があることを前提とした。

上記判例は、戦前の家父長制度を前提としたもので、現在その説は支持されていません。
現在では新住居権説のほうが有力といえるでしょう。

平穏説とは?

住居侵入罪で保護すべき法益を、「住居等の事実上の平穏」であるとする考え方です。
つまりは「侵入」の意義についても、居住者の平穏を害したことと考えます。

ただし平穏説においては、その基準があいまいであると指摘する学者も多数います。
居住者の意思を基準とした主観的な「平穏」を保護するのか、単に住居の「平穏」を客観的に保護するのか、という疑問が学者間で生じたのです。

現代では「新住居権説」が有力であるとし、最高裁判決においても住居侵入罪における「侵入」とは、居住者や管理人の意思に反して立ち入りであると結論付けられました。

住居侵入罪(不法侵入)で逮捕されたら弁護士へ

住居侵入罪で逮捕された場合は、刑事事件に詳しい弁護士に相談しましょう。
逮捕前・逮捕中・逮捕後であっても、逮捕された本人はもちろん、逮捕された方のご家族にでもできないことがたくさんあります。
刑事事件において、弁護士にしかできないことというのは実にたくさんあるのです。

以下のような希望がある方は、弁護士にご相談されることをおすすめいたします。

  • 逮捕前のアドバイスがほしい
  • 逮捕中接見(面会)にきてほしい
  • 逮捕後の勾留請求などに対し身柄解放活動してほしい
  • 不起訴になるよう検察官に意見してほしい
  • 被害者との示談を代理してほしい