岡野武志

第二東京弁護士会所属。刑事事件で逮捕されてしまっても前科をつけずに解決できる方法があります。

「刑事事件 法律Know」では、逮捕や前科を回避する方法、逮捕後すぐに釈放されるためにできることを詳しく解説しています。

被害者との示談で刑事処分を軽くしたい、前科をつけずに事件を解決したいという相談は、アトム法律事務所にお電話ください。

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執行猶予中の再犯|執行猶予の取り消しと実刑を回避するには?

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  • 万引き(窃盗)で執行猶予判決を受けたが、執行猶期間予中に再度万引きをしてしまった・・・
  • 執行猶予期間中に軽微な犯罪をしてしまい、警察から呼び出しを受けている・・・
  • 傷害事件で執行猶予判決を受けたが、再度傷害事件を起こしてしまい被害届を出された・・・

被告人が、公判で執行猶予付き判決を受けた場合、基本的には通常の生活に戻ることが可能です。
しかし、執行猶予期間は1年から5年と幅があり、その間に再度罪を犯してしまうことも考えられます。

当記事では、執行猶予期間中に再犯をしてしまった方に向け、以下の疑問に沿って解説しています。

  • 執行猶予とは?初度の執行猶予がつく要件は何?
  • 執行猶予期間中に再犯したら初度の執行猶予はどうなる?
  • 執行猶予期間中の再犯で執行猶予を取り消されない方法はある?
  • 再度の執行猶予はどういうときに付く?

執行猶予期間中の再犯で疑問をお持ちの方は、最終的に弁護士に相談することで、個別の対応方法を知ることが可能です。

なお、当記事では再犯の意味を 「再び(同種とは限らず)犯罪を犯すこと」 として定義して、解説を進めていきます。

執行猶予とは

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執行猶予とは

判決言い渡しの際に、一定の期間刑罰が猶予される制度。
その期間再犯を起こさなかった場合は、刑の言渡しの効力を失わせることができる。

執行猶予付判決の流れ

被疑者が逮捕されると、捜査・起訴を経て公判手続きに移行します。
なお、起訴されずに不起訴になれば事件は終了ですし、起訴後、公判ではなく略式裁判にかけられることもあるでしょう。

公判になれば最終的に判決が言い渡され、実刑判決が下れば、被告人はただちに刑務所などに収監されます。
ただし、執行猶予付き判決が下れば別です。

たとえば「執行猶予3年」との判決であれば、被告人は刑務所などに収監されず、その3年間は刑の執行が猶予され、通常の生活に戻れることになるのです。

  • 実刑
    判決後ただちに刑務所へ
  • 執行猶予あり
    自宅で生活が可能

執行猶予期間を過ぎれば、刑の言い渡しは効力を失いますので、最終的に刑務所に行かなくてもよくなるのです。

刑が猶予され、最終的に刑務所への収監が免れても、起訴され有罪判決が下された時点で前科は免れることができません。

また、執行猶予がつくためには要件を満たす必要があります。
次章で解説しましょう。

執行猶予がつくための要件

初度(初回)の執行猶予が付くための要件は、以下条文のとおりです。

第二十五条 
次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる

 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

刑法25条1項

 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

刑法25条2項

前科前歴がない初犯である場合、犯罪の内容が比較的軽かったり情状が酌量されたりした場合、執行猶予が付く可能性が高くなります。
情状酌量の内容としては、被告人の反省の度合いや、身内の方の観護などがありますが、何より被害者がいる犯罪においては、被害者との示談成立という事情が考慮されることがあります。

執行猶予が付くためには、刑事弁護に慣れている弁護士の力を借りることも必要です。
特に被害者との示談においては、弁護士でないと交渉が難しいでしょう。

執行猶予の目的は、再犯の可能性が低いとされる場合に、被告人の社会内での自発的な更生を図ることにあります。
刑の全部を執行猶予するもののほか、刑の一部執行を猶予する「一部執行猶予」というものもあります。

それでは、せっかく執行猶予がついたのにもかかわらず、再犯をしてしまった場合はどうなってしまうのでしょうか。
次章で詳しく解説いたします。

執行猶予中の再犯

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本章ではまず、再犯を起こす確率と、再犯に多い犯罪をみていきましょう。
統計データなどをもとに解説していきます。

有前科者の再犯率と罪名

令和2年版犯罪白書によれば、刑法犯により検挙された成人で有前科者のうち、前科1犯の比率がもっとも多くなっています。
しかし、前科5犯であっても有前科者の21.7%を占めており、いかに再犯者自体が多いことがうかがえます。

さらには有前科者のうち、同一罪名の前科を有する人員は52.5%と半数を超えているのです。
このうち、同一罪での再犯でもっとも多い罪名は何なのでしょうか。

おなじく統計上のデータによれば、刑法上の犯罪では前科何犯めであっても、「窃盗」「傷害」「暴行」が再犯においては多くなっています。
また刑法犯以外ですと、覚せい剤取締法違反や、大麻取締法違反での検挙率がもっとも高くなっています。

執行猶予中に再犯したらどうなる?

くり返しになりますが、執行猶予の目的は被告人の自発的な更生を図ることにあり、社会復帰をしやすくすることにあります。

しかし、執行猶予期間中の張本人がそのような目的を果たすことなく、再犯をしてしまった場合の処遇はどうなるのでしょうか。

執行猶予中に再犯したら・・・?

執行猶予期間中に再犯したら執行猶予が取り消される可能性が高いです。

執行猶予中の再犯で執行猶予が取り消される

執行猶予の取り消しとは、ある条件により執行猶予をなかったことにする制度です。
執行猶予が取り消されれば、もと言い渡された判決にもとづき、刑務所に収監されることになります。

執行猶予の取り消しには、かならず取り消される「必要的取り消し」と取り消されるケースがあるという「裁量的取り消し」があります。

執行猶予の必要的取り消し

第二十六条 
次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。
(中略)

 猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき。

刑法26条

つまり、執行猶予中の再犯の場合、その罪で執行猶予のつかない禁錮刑や懲役刑を受けた場合は執行猶予がかならず取り消されます。
逆を言えば、執行猶予中の再犯でも罰金刑などに処されたときは、初度の執行猶予が継続される可能性があるということです。

たとえば懲役1年執行猶予2年の判決後、執行猶予期間中に再犯をし、懲役2年になったとします。

その後、初度の執行猶予は取り消され、懲役1年に2年を加えた、3年の刑に処されることになるのです。

執行猶予の裁量的取り消し

第二十六条の二 次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。

 猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。
 第二十五条の二第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき。
 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部の執行を猶予されたことが発覚したとき。

刑法26条の2

禁錮刑以上の刑ではかならず執行猶予が取り消されますが、罰金刑以上であっても、状況によっては取り消されることを規定しています。
再犯の場合は特に、判決も重いものになりがちです。
精神疾患を患っているなど個別の事情を除き、本人の反省が認められないと判断されることも多いため、執行猶予の継続も難しくなってくるでしょう。
裁量的取り消しについては、犯人の情状などに照らし、個別の判断がされることになります。

以上が、執行猶予が取り消される根拠です。
しかし、本来であれば執行猶予が取り消されてしまうケースでも、弁護士に依頼することで回避できる可能性もあります。
次章では、執行猶予を取り消されない方法について解説していきましょう。

執行猶予の取り消し回避は弁護士に依頼

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執行猶予期間中の再犯は、弁護士に弁護活動を依頼することにより、刑が軽くなる可能性があります。

執行猶予期間中に再犯した場合、執行猶予が取り消されてしまえばそのまま刑務所に収監されます。
しかし執行猶予の取り消しを回避できた場合は、刑務所に収監されずに済みます。

執行猶予の取り消しを回避するためのポイントは、以下のとおりです。

執行猶予を取り消されないためのポイント
  1.  再犯の罪で不起訴処分を獲得する
  2. 「再度の執行猶予」を獲得する

執行猶予中の再犯で不起訴処分を獲得

再犯の罪が不起訴処分になれば、初度の執行猶予は取り消されません。

不起訴処分とは、検察官が公訴の提起をしない処分のことです。
不起訴処分となれば裁判にはならず、刑事事件は終了します。
よって、実刑判決を受けることもありませんし、罰金刑になることもありません。

不起訴処分になれば、初度の執行猶予取り消し要件に該当せず、執行猶予が継続することになります。
不起訴処分を獲得する方法については、弁護士に直接相談しましょう。
再犯の内容や今後の処分・傾向について、個別に対策をする必要があります。

不起訴処分の種類は以下のとおりです。

  1. 嫌疑なし
  2. 嫌疑不十分
  3. 起訴猶予

嫌疑なしとは、そもそも犯罪事実の行為者でないことが明白な場合をいいます。
その事実を証明するために、弁護士の力を借りることが必要となってくるでしょう。

嫌疑不十分とは、犯罪事実について、起訴するほどの十分な証拠がない状態です。

起訴猶予とは、犯罪事実は明確だけども被疑者の性格や年齢・境遇、犯罪の軽重やその他被疑者に置かれた事情により、起訴を猶予することです。

さらに起訴猶予となる情状酌量の一例をあげてみましょう。

  1. 被疑者の年齢がまだ若く、更生の余地がある
  2. 被疑者の置かれた家庭環境が悲惨で、そのことにより精神を病んで再犯に及んだ可能性がある
  3. 被疑者が性暴力を受けており、ストレスや不安のはけ口で犯罪を繰り返してしまう
  4. 犯行態様がそもそも悪質でない
  5. 被疑者と被害者の間で示談が成立している

執行猶予中の再犯で再度の執行猶予を獲得する

再犯で起訴された場合であっても、再度の執行猶予を獲得すれば、初度の執行猶予が取り消されることがありません。

前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

刑法25条2項

条文をまとめると以下のとおりです。

  • 現に刑の全部が執行猶予期間中であること
  • 再犯の判決が1年以下の懲役または禁錮であること
  • 特に酌量すべき情状があること
  • 初度の執行猶予に保護観察が付されていないこと

再度の執行猶予を獲得するため、弁護士は個別の事件・事情に沿って尽力します。
執行猶予期間中に不安をお抱えの方は、一度弁護士にご相談ください。

刑事事件は、被疑者・被告人の罪の内容や酌むべき情状に応じ、個別に対応することで、結果が大きく変わることがあります。
刑事事件の当事者が逮捕されているなど本人が来所できない場合は、ご家族の方からのご相談・ご依頼も可能です。
早めに対策することを念頭に、積極的に行動しましょう。