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クレプトマニア(窃盗症)で無罪は困難?|窃盗症と責任能力を解説

クレプトマニア(窃盗症・窃盗癖とも呼ばれます)と無罪の可能性について解説しています。
窃盗罪の代表的な行為としては、万引き行為を挙げることができるでしょう。
万引き行為を繰り返していると、その後の判決で不利になったり、身柄を釈放されなかったりします。
では精神疾患により、窃盗がやめられないケースについては情状の酌量が認められ、無罪になるのでしょうか?
結論、そのような精神疾患(クレプトマニア)で無罪を勝ち取ることは難しいです。
しかしクレプトマニアと診断され、無罪の可能性が低いとしても、治療や弁護士への依頼などによって不起訴処分を獲得したり刑の軽減を受けられたりする可能性はゼロではありません。
- クレプトマニアと診断された
- クレプトマニアと診断されてはいないがその疑いがある
- クレプトマニアで刑の減軽を望んでいる
このような方に向け、この記事ではクレプトマニアで窃盗をしてしまった後の対処法などについて解説していきます。
目次
クレプトマニア(窃盗癖・窃盗症)とは?

クレプトマニアはどんな精神疾患?
クレプトマニアは、精神疾患(精神障害)の一種です。
盗みをやめたくてもやめられず、一種の依存症になっている人もいます。
窃盗罪で逮捕される人のなかには、盗品を得ることを目的としている人もいれば、クレプトマニアのように盗品を目的としない犯行もあります。
クレプトマニアと診断された人の特徴としては、犯行時に自分の精神がコントロールできず、制御能力が欠如していた点が挙げられるでしょう。
ではなぜ、クレプトマニアという精神疾患を引き起こしてしまうのでしょうか。
クレプトマニアを引き起こしてしまうきっかけは多岐にわたりますが、以下のことがきっかけで起こりうる可能性があります。
- ストレスや不安が続いた
- 他の精神疾患を発症した影響からクレプトマニアにも罹患した
- 金銭的に余裕がなく盗みをおこなうことに罪悪感がなくなった
たとえば、幼少期の家族にまつわるストレスなどから、精神疾患を引き起こすことはよくあることです。
また、日々のストレスによりつい魔が差してしまい、万引き行為に及んだ人が、その後精神的な解放感からクセになるケースもあるでしょう。
クレプトマニアと診断されたら治療を優先すべき?
精神科などでクレプトマニアと診断されたら、刑事的な観点からもまずは治療を優先させましょう。
クレプトマニアの診断基準(診断目安)については、精神障害の診断と統計の手引き(DSM-5)に記載されています。
診断基準は以下のとおりです。
- 個人的に用いるものでも金銭的価値のためでもなく、物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される
- 窃盗におよぶ直前の緊張の高まり
- 窃盗におよぶときの快感・満足・解放感
- 当該盗みは、怒りまたは報復を表現するためのものではなく、妄想や幻覚への反応でもない
- 当該盗みは、素行症・躁病エピソード(躁病エピソード診断基準による)・反社会性パーソナリティ障害ではうまく説明されない
クレプトマニアの治療は、刑事事件の現場においても、被疑者・被告人の同意のもとおこなわれています。
その結果、社会復帰などの更生手段として効果を上げているのです。
治療内容は、おもに医師による治療やカウンセリングですが、原因追及も重要だとされています。
上記自助グループや支援団体については、刑事事件を扱う弁護士から紹介することも可能です。
また、窃盗事件を弁護士に依頼した際、刑事対策と並行して治療をおこなうことも可能ですし、逮捕後身柄拘束中でも治療ができる場合もあります。
クレプトマニアでは無罪にならない

クレプトマニアでむしろ実刑になる?累犯と常習犯
冒頭でお話ししたように、クレプトマニアのみの原因で無罪判決を得たり、寛大な処分を得たりできる可能性は低いです。
となれば、クレプトマニアという性質上、再犯に及ぶ可能性が高く、その場合は初回よりも刑が重くなる傾向にあります。
窃盗事件の場合、被害弁償や示談が有効に成立していれば、初回の事件においては不起訴処分で終わることもよくあります。
窃盗の対象が少額であれば、微罪処分となるケースも中にはあるでしょう。
しかし、犯罪を繰り返してた場合においては「累犯」に該当することがあります。

弁護士
累犯とは、以下の場合に該当します。
- 再犯であること
- 三犯以上であること
刑法第56条から59条に定められています。
窃盗罪の刑罰は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」ですが、累犯の場合には「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」となります。
(再犯)第五十六条 懲役に処せられた者がその執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するときは、再犯とする。
2 懲役に当たる罪と同質の罪により死刑に処せられた者がその執行の免除を得た日又は減刑により懲役に減軽されてその執行を終わった日若しくはその執行の免除を得た日から五年以内に更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するときも、前項と同様とする。
3 併合罪について処断された者が、その併合罪のうちに懲役に処すべき罪があったのに、その罪が最も重い罪でなかったため懲役に処せられなかったものであるときは、再犯に関する規定の適用については、懲役に処せられたものとみなす。
刑法第56条
(再犯加重)
刑法第57条
第五十七条 再犯の刑は、その罪について定めた懲役の長期の二倍以下とする。
(三犯以上の累犯)第五十九条
刑法第59条
三犯以上の者についても、再犯の例による。
また、累犯のさらに上をいく「常習累犯窃盗」に該当する可能性もあります。
その場合、懲役3年から20年以内の刑罰に科せられます。
クレプトマニアはなぜ無罪にならないの?
まず、窃盗罪を成立させるためには以下を満たさなくてはなりません。
- 窃盗行為が実質的にも違法であること
- 窃盗の犯人に刑法上の責任が認められること
クレプトマニアと無罪との関係で検討すべき事項は、後者の「責任」の有無です。
つまり、クレプトマニアであることを理由に、裁判官に責任能力が欠如していると判断すれば無罪になりうるということです。
ただ残念ながら、これまでお話ししたように、クレプトマニアで無罪になる可能性は低いです。
責任能力がなく無罪であると判断されるためには、心神喪失であったと判断される必要があります。
(心神喪失及び心神耗弱)第三十九条
心神喪失者の行為は、罰しない。
2 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。
刑法第39条
第1項の「心神喪失者」に該当すれば、被告人は無罪になるということです。
また同条では、2項の「心神耗弱者」に該当した場合は刑が減軽されることを規定しています。
心神喪失者・心神耗弱者とは?
(心神喪失者)
自己の行為の是非善悪を弁別する能力(弁識能力)を欠く者・またはその能力はあるがこれに従って行動する能力(制御能力)がない者をいう。
(心神耗弱者)
上記、弁識能力や制御能力が著しく低い者をいう。
クレプトマニアにおいてさらに重要な要素は、上記心理的要素のなかでも、「制御能力」の有無についてです。
クレプトマニアに罹患していても、窃盗行為が悪いこと・犯罪であることについては大抵の人が認識できている(弁識能力がある)ため、無罪獲得はほぼ不可能なのです。
では後者の、万引き行為が悪いとわかっていても制御できない(制御能力)能力はどうでしょうか。
クレプトマニアに罹患している人には備わってないように思われます。

弁護士
制御能力が減退していても、その能力が「著しく低い」と判断されなければ心神耗弱者にもあたりません。
上記のことから、いくらクレプトマニアに罹患していても、以下の要素にかんがみ無罪は難しいと考えられるのです。
- 心神喪失者にするには、クレプトマニアはそもそも弁識能力の欠如であるといえないので該当しない
- 心神耗弱者とするにも、クレプトマニアは弁識能力はあると判断されやすく、制御能力についても一定の減退しか認められない可能性が高い
となると、刑法第39条に規定する「罰しない」や「減軽」に該当せず、検察官の起訴後に、無罪判決を得られる可能性は低いと考えられるでしょう。
もちろん、クレプトマニア以外の要素で無罪判決を獲得できる可能性を否定するものではありません。
クレプトマニアの裁判例とは?
せっかくですので、クレプトマニアによる減軽が争点になった事案(裁判例)をご紹介します。
クレプトマニアを理由に、弁護側が減軽を主張するも、控訴棄却とされた事件です。
控訴棄却とは、原審である第一審判決に誤りがないとされ、原判決が維持されたという意味です。
平成26(う)第469 窃盗被告事件(平成26年7月8日 大阪高等裁判所 棄却)
弁護人の主張は、被告人の実刑10月の判決は重すぎるということ・被告人はクレプトマニアに罹患しているため、刑の減軽により執行猶予付き判決が相応であるというものでした。
しかしこれを受けた高等裁判所は、以下のように指摘しています。
- 犯行は大胆で、被害品は合計93点、販売価格は3万円以上にもおよび、多数多額で犯情も悪質
- 被告人には約9年間にわたり前歴3回、その他にも執行猶予や保護観察に付されていたことがあり、常習性が認められる
- 被告人は、当該行為が万引き行為であると十分に認識していたと認められる合理的な理由があり、本件犯行当時の衝動制御能力に及ぼす障害・行動制御能力に及ぼす影響はごく軽微なものであった
当該被告人はクレプトマニアに罹患していると医師に判断されていましたし、診断基準にも該当していました。
また、被告人は、犯行後には自助グループのミーティングなどにも参加し、治療を続ける意思もあったとのことです。
しかし裁判所は、病気と真摯に向き合っている事実については一般情状として肯定しつつも、過去の複数の前科前歴・その他の背景事情にかんがみれば、減軽は到底認められるものではないと判断しました。
クレプトマニアで無罪主張する以外の弁護活動

クレプトマニア・その他弁護活動内容については弁護士に相談しましょう。
クレプトマニアの病状や、事件背景は個人により様々です。
クレプトマニアにまつわる窃盗事件(万引き事件)については、以下のような相談・弁護活動が可能です。
クレプトマニア(窃盗事件)について弁護士ができること
- クレプトマニアの苦しみを理解し、一緒に事件と向き合う
- 逮捕後の身柄解放活動で釈放を目指す
- 被害者との示談や弁償をおこない刑の軽減を図る
- 初犯の方については特に、前科がつかない活動を重視
- クレプトマニアの治療機関や自助グループの紹介・治療の相談
- 治療経過を捜査機関・裁判所に報告し、被疑者・被告人の更生を図る
弁護士
クレプトマニアの治療においては、単に医療機関に限らず、生活訓練などを指導してもらえる支援団体への入所や、自助グループに参加する方も多いです。
例えば、貧困から万引きを繰り返している人のケースでは、福祉につないで解決を図ることもあります。
被疑者・被告人がホームレスであれば、ホームレス支援団体と連絡を取ることもあるでしょう。