岡野武志

第二東京弁護士会所属。刑事事件で逮捕されてしまっても前科をつけずに解決できる方法があります。

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強制性交|合意の上とは?強制性交等罪の成立要件・判例や対策を解説

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平成29年(2017年)、旧強姦罪が「強制性交等罪」として刑法典に改められました。
これまでの大きな枠組みはそのままに、要件などの議論は残しつつも、性犯罪被害者の目線により近い内容となりました。

強制性交等罪は、合意の上でおこなわれたものでない、つまりレイプ事件にあたる性行為等を厳しく取り締まっています。

合意がなかったとして強制性交等罪で逮捕・起訴された場合、極めて重い判決が下されることが大いにあり得ます。

当記事では以下の疑問に沿って、強制性交が合意の上だと思っていたが訴えられるケースや、そもそも合意の上ではなかった場合の対策について言及していきましょう。

  • 合意の上とは?どのようなケースで強制性交になる?
  • 合意があっても強制性交等となる場合がある?
  • 自分は合意の上だと思っていた・・・合意を証明するには?
  • 合意の上だと信じていたが自信がない・・・被害者に訴えられた際の対策とは?

強制性交とは?合意の上でも罪になる?

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強制性交は、そもそもどのような要件を満たせば成立するのでしょうか?
まずは強制性交罪の内容を確認し、強制性交罪の争点から探っていきましょう。

強制性交の成立要件|強制性交の行為について

まずは強制性交とはどのような罪なのかについて、条文を挙げて解説しましょう。

(強制性交等)
第百七十七条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、こう門性交又は口くう性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

刑法177条

強制性交は、刑法177条「強制性交等罪」に規定されています。
もともと「強姦罪」として規定していたものが、改正刑法により内容が拡大されました。
旧強姦罪では、加害者を「女子を姦淫した男子」に限定していましたが、改正刑法では加害者・被害者の性別を問わないこととしています。
また、行為態様についても性行為に限定せず、肛門性交や口腔性交も対象にしました。

よって、罪名が強制性交「等」罪になっているのです。

「合意の上」とは?同意のない性行為について

まず、本当に合意があったのであれば、強制性交等罪は成立しません。

しかし合意の上であったかどうかの立証は難しく、性行為の前にわざわざ同意書などを取り交わす人もあまりいないでしょう。

強制性交等罪の保護法益は、「性的自由」です。
つまり、望まない相手と性行為をしない自由をさしています。

性行為などが合意であったかどうかの見極めは、非常に難しいのが実情です。
被害者視点ですと、同意した覚えはないがその証拠がなかったり、加害者視点ですと、合意の上だったと認識していたが犯罪者に仕立て上げられたなど、個人の認識の違いも存在するからです。

ここで、合意の有無・被害者の抵抗の有無が争点になったとされる、注目すべき裁判例・事件をご紹介しましょう。

被害女性の明確な拒絶がなく、加害者が誤信する状況であったとして無罪判決

福岡市の飲食店で、当時22歳の女性が飲酒で深酔いして抵抗できない状況にあるなか、加害者が性的暴行をしたという事件です。

被害者である女性はテキーラなどを数回一気飲みさせられ、嘔吐しても眠り込んでおり抵抗できる状態ではなかったようです。

加害者男性は準強姦罪で起訴されましたが、結果的に被害者に完全な拒絶反応がなかったなどとして無罪判決が言い渡されました。

女性が目を開けたり声を発していたことから、加害者側は許容していると誤信する可能性があったと指摘されています。

合意の上だったと誤信すれば罪にならないのか・加害者が、相手の同意の有無を判断できなかったことに過失はなかったのかなど、波紋を呼んだ判決です。

(福岡地裁久留米支部平成31年3月12日判決)

2019年3月、実はほかにもこのような無罪判決が相次いだのですが、以下でご紹介するのは検察官の控訴により逆転有罪判決となった事件です。

19歳の実子に性的虐待を繰り返していたとして、父親が逮捕された事件です。
被害者は中学生のころから実の父親に性行為を求められており、恐怖心などから抵抗できる状態ではありませんでした。
最初は陰部を触られたり口腔性交などを求められましたが、次第に性交を迫られるようになり、専門学校へ通うようになってからもそれは続きました。
しかし第一審では、被害者の同意がなかったことは認めつつも、強制性交等罪の要件である「抗拒不能」を満たさないとして父親に無罪判決が言い渡されました。
被害者は、学費などの経済面からも父親に頼らざるを得ない状況でした。
被害者からすれば逃げ場のない状況だったと考えられますが、第一審では、父親の性的暴行は被害者を完全に支配するまでの程度のものではなかったと判断したのです。
性行為の事実についても、抵抗することが著しく困難な状況ではなかったと指摘されたのでした。
しかし高裁判決では、一審判決が「父親が実の子に対し、継続的に行ってきた性的虐待の一環であるということを十分に評価していない」などとして、懲役10年を言い渡しました。

(名古屋高裁令和2年3月12日判決)

被害者が13歳未満だった場合は合意の上でも強制性交になる

強制性交の相手が13歳未満だった場合、相手と合意の上だったとしても強制性交等罪は成立します。
つまり、相手が13歳未満の子どもであった場合、性行為そのものが処罰対象だということです。

日本の性的同意年齢13歳であり、性的同意年齢とは、性行為の同意能力があるとみなされる年齢の下限のことです。
未熟な子どもは同意能力を有しないとされる前提で、このような規定が別途置かれています。

また、本罪は合意の有無だけが争点になるのではありません。
条文にあるとおり、性交渉等に至るまでに、加害者からの暴行や脅迫があったことが要件となっています。

なお、被害者が13歳未満であれば暴行や脅迫要件も必要ありません。

暴行や脅迫について、以下でみていきましょう。

「暴行又は脅迫」とは

こちらは、唯一改正されなかった強制性交等罪の要件です。
13歳以上の者に対する強制性交等罪が成立するには「暴行又は脅迫」が必要です。
強制性交等罪における暴行又は脅迫は、「相手の抵抗を著しく困難にする」程度のものをいいます。

この判断は、犯行日時、犯行現場の状況、加害者と被害者の性別・年齢・体格差、凶器を使用したか、などから客観的に行われます。
暴行や脅迫が認められた場合、基本的に「合意の上」だったとは言い難いでしょう。

なお、暴行・脅迫がなくても、強制性交等罪と同様の性犯罪として凖強制性交等罪が成立することがあります。

凖強制性交等罪は、相手方(被害者)が意識を失っていたり、抵抗できない状態であるときに、性交等をおこなうことを処罰対象としています。

準強制性交等罪は強制性交等罪と量刑は変わりません。

以下に条文を挙げてみましょう。

(準強制わいせつ及び準強制性交等第百七十八条 
人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。
 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。

刑法178条

心神喪失の例としては、被害者が眠っている状態だった場合や、お酒を飲みすぎて意識を失っていた場合などがあります。

抗拒不能の例としては、物理的なものですと縛られていて身動きが取れない場合、その他心理的に抵抗できない状態などが挙げられます。

心理的なものですと、被害者が加害者(被疑者)のことを、自分のパートナーだと信じ込んでいたケースなどがあるでしょう。

強制性交等罪は告訴がなくても成立する?

告訴がないと検察官が起訴できないとする犯罪を、「親告罪」といいます。

つまり親告罪であれば、被害者が捜査機関に告訴状を提出しない限り、加害者は逮捕されないということです。

刑法が改正される前、強制性交は親告罪とされていました。
そのため、本罪で逮捕・起訴されるかは被害者の決断に委ねられており、被害者の精神的苦痛などをぬぐえなかったのです。
それら背景もあり、改正刑法によって、強制性交や強制わいせつ罪は親告罪でなくなったのです。

この章のまとめ

  • 強制性交等罪で取り締まる行為は「性行為」に限られない
  • 強制性交等罪は合意の上であれば原則として処罰対象としない
  • 性交等が合意の上だったかの見極めは難しい
  • 性交等の相手が13歳未満だった場合は合意があっても強制性交等罪が成立する
  • 13歳以上の者への強制性交等罪は暴行又は脅迫があったことが前提
  • 13歳未満の者への強制性交等罪は暴行又は脅迫がなくても成立する

次章では、合意の上だと思っていたのに訴えられたケースを想定し、加害者(被疑者)が取ることのできる手段について言及していきましょう。

性交等が合意の上だったことを証明するには

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合意の上だと思っていたのに、強制性交だとして警察に訴えられた・・・
訴えられた本人は合意の上だと思っていたというケースや、不安な要素はあれど合意していたように思えた等様々ではありますが、反論していくことはできるのでしょうか。

この章では、合意の有無が争点になっている場合の対策についてお話しします。

強制性交等罪で警察に訴えられたら?

相手との性行為等が合意の上だと認識していた際は、反論すべき点を検討します。
警察が関与し、被害者本人との話し合いも難しいという場合は弁護士に相談しましょう。

順序としては以下の流れが想定されます。

  1. 弁護士に事件の概要を相談する
  2. 事件が警察段階である場合、逮捕に至らない根拠・反論を警察に訴える
  3. 逮捕されてしまった場合は警察もしくは検察官に反論などを訴える

合意の有無が争点になっている場合、事件当時の状況などを捜査機関に訴えることができます。

被害者側、ひいては捜査機関側は合意がなかった点について言及してきますので、弁護側は合意があった旨を追及します。

また、被害届が出されたからといって、根拠もなく加害者が逮捕されることはありません。
逮捕できるだけの根拠・証拠が必要となります。

しかし、強制性交等罪は量刑も重い犯罪ですので、万が一の場合に備え弁護士相談は早めにしておきましょう。

合意があった場合は反論を検討することになりますが、合意があったかどうかの判断がつきにくいケースもあるかと思います。

合意がなかったと判断されるケースとしては、たとえば被害者の体に暴行を受けた形跡があった場合や、衣服などが破損していた場合が考えられます。

強制性交等罪は示談が重要

強制性交等罪など被害者がいる犯罪では、示談が重要なカギになります。

被害者と示談をし、許しを得られれば、逮捕や起訴されない可能性も高まります。

もちろん、示談交渉を加害者(被疑者)本人がおこなうことは困難ですので、示談交渉の実績がある弁護士へ相談することが必要です。
示談の基本的な流れは以下のとおりです。
なお、事件の内容によっては異なる点もあります。

示談交渉の流れ

  • 弁護士が相手(被害者)の連絡先を入手
  • 弁護士が被疑者の代わりに、被害者に連絡
  • 被疑者の謝罪の意を代理で伝える等し、示談について相談
    (被疑者直筆の謝罪文などを後に添付します)
  • 示談金や示談内容の交渉・確定
  • 示談書取り交わし
  • 示談書を捜査機関などに提出

起訴前に示談が無事に成立すれば、不起訴処分になる可能性が高いです。

ただ、これまでに同種・同様の犯罪を繰り返している方や、事件後に余罪が判明した場合などは、その後の状況が悪くなることも想定されます。
弁護士にはこれまでの経験を正直に話し、事件の展望についてあらかじめ対策を打っておくことが重要です。